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東京高等裁判所 平成9年(う)808号 判決 1997年8月27日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人赤坂軍治作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中、法令適用の誤りの主張について

所論は、要するに、被告人は、尾﨑忠志(昭和三三年二月生れ)が稲江愛則(昭和四四年一〇月生れ)からけん銃等を譲り受けるに際して、その周旋をしたに過ぎないから、けん銃等の譲渡しと譲受けの周旋罪(銃刀法三一条の一五)を適用すべきであるのに、けん銃等の譲受け幇助罪(同法三一条の四第一項、三条の一〇等)を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、記録を調査して検討するに、原審取調べの関係証拠によると、被告人は、その所属する暴力団若頭の尾﨑からけん銃と実包の入手の手立てについて再三頼まれたため、知り合いの暴力団組員の稲江に、数度にわたりけん銃と実包の当てについて相談や打診をしたところ、その後稲江からけん銃と実包が五〇万円で譲渡できる旨の連絡を受けたことから、その旨尾﨑に報告し、けん銃と実包を持参した稲江を尾﨑の居室に案内して引き合わせ、その後は両名が直接交渉して本件けん銃と実包の売買をする現場に立ち会い、尾﨑に本件けん銃等を四五万円で入手させたことが認められ、右経緯及び状況に照らすと、被告人は、もっぱら尾﨑のためにけん銃と実包の譲渡人探しの行動を取ったもので、けん銃と実包の譲渡しと譲受けの仲介をしたというものではないから、被告人の右所為は、尾﨑の本件けん銃と実包の譲受けの幇助に当たるというべきである。したがって、被告人の本件行為について、刑法六二条一項、銃刀法三一条の四第一項、三条の一〇及び刑法六二条一項、銃刀法三一条の九第一項、三条の一二を各適用した原判決に誤りはない。

控訴趣意中、量刑不当の主張について

所論は、要するに、原判決の量刑は重すぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件は、山口組傘下の暴力団の行動隊長である被告人が、同組の若頭からけん銃等の入手を依頼されたことから、その譲渡人を探し、若頭に知り合いの暴力団組員を引き合わせるなどして、稲川会系の暴力団との抗争に備えていた若頭がけん銃一丁及び実包一七発を譲り受けるのを幇助した、というものである。暴力団幹部のけん銃及び実包の譲り受けに容易に加担した動機に酌むべきものはなく、銃器等を使用した犯罪が多発しその取り締まりの必要が叫ばれ、刑罰法規も強化されている中で本件を犯した被告人の所為は悪質である。加えて、被告人は、未成年時代から暴力団に加入して組員として活動し、一時辞めたものの、その後再び暴力団組員となって本件に至るまで活動し、この間毒物及び劇物取締法違反による中等少年院送致の保護処分や罰金に処せられたり、覚せい剤取締法違反の罪で執行猶予付き判決を受けるなどしているのであって、規範意識の欠如もうかがわれること、本件当時定職にも就いていなかったこと等に照らすと、本件の犯情は芳しくなく、被告人の刑事責任を軽くみることはできない。

そうすると、本件が幇助犯に止まること、本件けん銃が銃弾発射機能にやや問題がみられる改造けん銃であること、被告人が、公訴事実を素直に認めて、反省の態度を示し、暴力団を脱退して正業に就きたいと述べていること、母親が被告人の更生に協力すると述べていることなど、被告人のために酌むことのできる事情を十分考慮しても、被告人を懲役一年六月に処した原判決の量刑はやむを得ないものであり、これが重すぎて不当であるとは認められない。

各論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

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